2019年5月22日記事∮プロデューサーカット∮お届けします

1841年の夏のあいだノアンの静かな生活は波立ち始めていた。
それは、ピアノ教師としてサンドが娘のソランジュのために家庭教師として雇っていたショパンの弟子のミール・ド・ロゼール嬢の振る舞いが原因であった。
ロゼール嬢は36歳だったが、よりによってショパンにとって悪夢の詐欺師ヴォジンスキ一家の兄のアント二イ(29歳)と関係を持つようになったのだ。そしてロゼール嬢(嬢といっても36歳…)は、アント二イと自分は恋仲であると自分を誇示し公言して言いふらしていた。
ショパンにとって忘れたい、マリア・ヴォジンスキとの結婚詐欺事件、それはロゼールが
マリアの兄であるウォジンスキ・アント二イからショパンとマリアとの婚約の全容を聞き、そして、そこにあることないこと尾ひれがついてサンドの耳に入ることになるのである。
しかも、ショパンが一番最初にポーランドの両親を喜ばせるために、ショパンのパリのアパルトマンの食器棚に隠しておくようにとフォンタナにあれほど頼んでおいた、ショパンの小さな胸像をフォンタナがショパンに無断で、ポーランドへ一時帰国するアント二イにあげてしまったのだ。
これには、さすがのショパンも黙っているわけにいかなかったのだ。
ショパンは直ぐに、どういうことなのかフォンタナに問い詰めようと思っていた。
「ボンノートへの手紙を君が目を通してから封印し届けてください。
そして、君がパリの街を歩いているとき僕にふさわしいアパルトマンを見つけて僕に教えてください。階段に関する条件はもう必要ありません。 。 。 。チャールズ(使用人)はパリに着くころだ。戻ってきたはずだ。
銀行家でユダヤ人のデッサウアーへ僕についてあまり話さないで下さい。僕が引っ越すためのアパルトマンを探しているということは彼には黙っておいて下さい。アント二イにも話さないで下さい。」
ショパンはパリに戻るときは、また新たに別のアパルトマンに引っ越そうと考えていた。
アント二イから聞いた話をロゼールがパリでペチャクチャ噂話をあちこちですることは間違いないからだ、そうなると、自分の住んでいるパリのアパルトマンの周辺がショパンにとって居づらくなるのである。
「ロゼールのおしゃべりは止むことはなく、噂話を創作し、しゃべりまくり、そのうち
僕に跳ね返ってきたときにはとんでもないことになる。人の口から口へ伝わり、事は大事件になり似ても似つかぬ空想話になるのです。」
フォンタナにもロゼールには警戒するよう忠告したショパンだった。
そして、フォンタナはショパンにポーランド情勢を「反乱成功の機会である」と、伝えて来たのだ。(手紙は現存せず)しかし、ショパンは「マッシンスキによろしく。ポーランドが反乱成功の機会であるなど笑うべきことである、本当にそうなればいいと思うが、僕はそうは思わない。」と
誰かに漏れることを恐れたのか、ポーランドのこの話はさらりと交わした。
パリで革命家のブラックリストに挙げられてからというものショパンはサンドの監視下で暮らし、幾多の制裁に苦しめられ死ぬ思いをして来たのだ。
その制裁のひとつにはヴォジンスキ一家のことも絡んでいるのである。
ショパンは気を取り直して、出版の話をフォンタナに詳しく話続けた。
「出版社のトルーぺナスに≪タランテラ≫の原稿を渡し、ヴェッセルにも原稿を郵送して下さい。シュベルトから返事がないのなら、出版の日取りの催促をしてください。
返事があれば、それをヴェセルに伝えるのです。手紙が多くなるが楽しみです。」
この時、ノアンにはポーリーヌが来ていた。2週間ほどの滞在で、ショパンが言うには、自分の音楽の状況はおぞましいものであるのだ。ポーリーヌは売れっ子の歌手だったはずである、ショパンのグランドコンサートの出演依頼を断り、その穴埋めに来たのではないのかと思いきや・・・ポーリーヌがノアンに来ても音楽については何もしなかったというのだ。
ショパンは、また、気分が落ち込みそうである自分を自分で励ますかのように
フォンタナに仕事一筋の話をした。「トルーぺナスに≪タランテラ≫の写しを書いて渡すこと。忘れないでください!ハンブルクはシュベルト、ロンドンはヴェセル、ヴェイセル出版社には後日ウィーンのメヘッティ氏に手紙を書くと伝えてください。メヘッティ氏は何か提供してくれると約束しました。デッサウアー(友人で作曲家)とシュレジンガーに会ったら、ウィーンへの郵便は元払いかを聞いてください。」
ショパンは、ロセール譲とアント二イの問題、そして、ポーリーヌの意味のわからぬサンドとの行動。ショパンは女の質の悪い噂話にはうんざりしていた。ショパンはそれを振り払うかのように出版の仕事にまい進した。

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Pianist由美子UNO が綴るショパンの情景

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