ℱ・ショパン《マルファッティの友情とテレーザ夫人との約束》
1830年から1831年にかけてのウィーン。ショパンにとってそこは、音楽の都というよりは「華やかな牢獄」でした。絶望の淵にいたフレデリックを、精神的・肉体的に支え、父のように接した人物がいた。その人物とは、ベートーヴェンの最期を看取り、ウィーン社交界で絶大な信頼を得ていた名医、ヨハン・マルファッティだった。
マルファッティとフレデリックは魂の交流を深めた。マルファッティの邸宅に招かれることがウィーンでのフレデリックの孤独を和らげる唯一の心の拠り所だった。
第5章:閉ざされた門と、マルファッティの「贈り物」
ウィーンでの日々がいよいよ終わろうとしていた頃だった、ショパンはマルファッティの紹介を頼りに、ある人物を訪ねた。それは、かつてベートーヴェンの熱烈なパトロンであり、音楽の都ウィーンの象徴でもあった貴族、ルドルフ大公(あるいはその周辺の有力貴族たち)を介した人脈だった。
マルファッティは、フレデリックの才能がこの古い都で腐ってしまうのを恐れ、自分の持つ最高の人脈をフレデリックに与えたかった。
「この紹介状を持っていきなさい。彼らはベートーヴェンを理解した人々だ。君の音楽の真価値を見抜くはずだ」
しかし、ショパンを待っていたのは冷酷な現実だった。
フレデリックは自ら足を運び何度も邸宅の門を叩いたが、取次ぎの召使いに冷たくあしらわれ、紹介状さえまともに読まれることはなかった。かつてはベートーヴェンの咆哮を支えた気高いサロンだったが、今やポーランドから来た「素性の知れない亡命ピアニスト」に割く時間など持ち合わせていないかったからだ。
「ベートーヴェンのパトロンだった者たちが、今の私の音を聴こうともしない。ウィーンは過去の遺産を食いつぶし、新しい魂を拒絶する墓場だ‼」
フレデリック・ショパンは、門前で紹介状を握りしめ震える手を見つめた。
ジエリンスキーから受けた「値踏み」の屈辱、ハスリンガーからの「無関心」、そしてこの「無視」。これらすべての拒絶が、フレデリックの心に「この街に僕の居場所はない」という確信を強く植え付けたのだった。
第6章:パリへの鍵――フェルディナント・パエールへの紹介状
傷ついたフレデリックを再び救ったのは、やはりマルファッティだった。
彼はウィーンの貴族たちの無礼を詫びるように、もう一通、より実利的な、そして運命的な紹介状をしたためた。
それは、パリ音楽界の重鎮であり、ナポレオンの宮廷楽長も務めた作曲家、フェルディナント・パエール(Ferdinando Paer)へ宛てたものだった。
「フレデリック、この街を見限りなさい。君が行くべきはパリだ。パエールなら、君の指先にある真実を理解し、芸術の都の扉を開いてくれるだろう」
この一通の紹介状こそが、フレデリックにとっての「脱出口」であり、未来への唯一の希望の頼み綱となったのだ。
第8章:◇もう一つの紹介状◇ ショパン:愛国と野望の間で揺れた「亡命」への旅路
1830年11月:ワルシャワからの密やかな送り出しをした人物がいた。彼女が描いた「パリへの地図それがテレーゼ夫人だった。
フレデリックが、ワルシャワを離れる際、後にフレデリックとの恋のうわさと婚約破断になる運命のお相手マリア・ヴォジンスカの母親のテレーザ・ヴォジンスカ夫人だ。彼女はフレデリックに大きな期待を寄せていた。
1830年11月:ドレスデンでの「密議」があった。
フレデリックは、ワルシャワを出発した後、ウィーンへ向かう前にまずドレスデンに立ち寄っていた。 ここには、フレデリックを幼い頃から見守り、その才能が「ポーランドの至宝」であることを誰よりも理解していたテレーザ・ヴォジンスカ夫人の邸宅があったからだった。
夫人の手引き:フレデリックはドレスデンで 夫人と再会した。彼女は迫りくる戦争(11月蜂起)の影を感じ、ショパンを安全なそしてパリへ送り出すことを決意した。
フレデリックがテレーゼ夫人から、パリの有力な貴族や音楽関係者への紹介状が手渡されたのはこの時だった。
これがなければ、ポーランドの若者がパリの貴族サロンに受け入れられることはなかったのだ。
「あなたは音楽でポーランドを救いなさい」。そんな言葉とともに、テレーゼ夫人とショパンの間でパリでの活躍と再会は誓われたのだった。
結び:1830年12月〜1831年7月:足止めのウィーン
ドレスデンを後にしたフレデリックは、紹介状を胸にウィーンへ入った。しかし、直後にワルシャワで蜂起が勃発。
ウィーンは反ポーランド一色となった、ショパンは身動きが取れなくなった時に孤独の中でフレデリックを支えたのは、ドレスデンでテレーゼ夫人と交わした「パリへ行き、音楽で戦う」という使命感でもあった。
ウィーンのマルファッティの邸宅に招かれるフレデリック*イメージ画像*この画像はコピーガードが施されています
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