ℱ・ショパン《あやつり人形の檻(おり)帝王が隠した卑しき虚栄心》②
「何か弾いてみたまえ」
促されるまま、ショパンは故郷を去る直前に自らの魂のすべてを注ぎ込んで作曲した『ピアノ協奏曲第1番 ホ短調』を奏でる。
オーケストラのない、ピアノ一台だけの剥き出しの響き。ショパンは文字通り命を削るように、真珠が転がるような独自の弱音と指使いで、自らの音楽を解き放った。
弾き終えたとき、室内を支配したのは、あまりに奇妙な沈黙だった。
完璧主義の怪物と呼ばれ、伝統的な重い打鍵と均整を至上命題としてきたカルクブレンナーが、ピアノの前で途方に暮れ、呆然と立ち尽くしていたのだ。
ショパンの放った「未知の天才」の衝撃は、大巨匠のプライドをその根底から揺るがしたのである。
しかし、老獪な巨匠はすぐさま体制を立て直した。
彼はショパンの演奏を
「タッチはフィールド、スタイルはクラマーのようだ」と評した。
他人の型にハメることで、その強烈なオリジナリティから目を背け、自分の理解できる範疇に囲い込もうとしたのだ。
さらに、カルクブレンナーの巧妙な「逆襲」が始まる。
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