ショパンはパリで、ヴォジンスキ家のマリアの兄アント二イのことを面倒見るようにヴォジンスキ夫人から頼まれていた。
パリにアント二イが来てからというものショパンは弟のようにアント二イが欲しがるものをあれこれ買って与えたり、ピアノを教えたりと面倒を見ていた。
そのアント二イがスペインで第一次カルリスタ戦争に巻き込まれて負傷したとショパンは連絡を貰った。
アント二イはスペイン軍の部隊に入っていて所属連帯は全滅という訃報が新聞に載ったのだ。ショパンはヴォジンスキ夫人から頼まれていたにもかかわらず、アント二イが負傷したことはをそれ以上は面倒見切れず困ったと思った。とにかくアント二イに、これ以上スペイン軍で戦うことは辞めるように説得したショパンだった。
ショパンはアント二イにポーランドの実家へ帰るようにアント二イに強く説得し、
お金のことはマッシンスキに指示してあると伝えた。ショパンは金遣いが荒いアント二イにパリでお金をたかられていたのだ。ショパンもお金には余裕がないというのに、アント二イはショパンにお金を頼って連絡してきたのである。
つまりマッシンスキがそのお金を肩代わりしていたことになるのだ。
ショパンは自分のことは冬に病気になったため、医者にドイツの温泉保養地エムスに行くよう言われていて、ドイツにいる親友ティトゥスとも会う予定であることをアント二イに伝えている。
そして、これから2、3日はジョルジュ・サンドの別荘ノアンへ行く予定であるため、
要するに君たちヴォジンスキ家へは行くことはできないが悪く思わないでくれたまえと事前に防波堤を張ったショパンだった。
しかし、この選択が良かったかはまた別の話である。ヴォジンスキ家と付き合うか、
サンドにするか、ショパンはどちらにしても辛いことには変わらないのである。
そうこうしているうちに、ショパンの病が深刻なのではないかと、あのド・キュスティヌ侯爵の耳に入った。ド・キュスティヌはショパンのいわゆる熱心なファンでもあるのだ。
同性愛者の変わり者のレッテルを貼られてしまったド・キュスティヌであったが、病気のショパンを見捨てず、ショパンの健康をこれ以上悪化させないように自分が力になれることがないか考え手紙を書いている。
恐らくはド・キュスティヌ侯爵はショパンがヴォジンスキ家との付き合いに疲れ果て、サンドの誘いに傾いていることを知っていたのであろう。
サンドがどういう女かはド・キュスティヌ侯爵も知ってはいたのであろう、このままでは
ショパンの健康は悪化し、芸術の宝の損失になりかねない危機を感じたド・キュスティヌ侯爵であったのだ。
ド・キュスティヌ侯爵はショパンに最後の忠告だと伝えてた。
「私があなたを愛しているのは自分のためではなく、あなた自身のためだということを信じてください」
「あなたの肉体的、精神的、苦しみは極限まで達しているのです。心の悲しみで体が病気になるのなら、それは私があなたを救いたいのです」
「私はあなたの問題の核心に触れるだけの資格のあるあなたの親友です。
あなたをパリに引き留めるのはお金ですか?お金なら私が貸します。あとで返してくださればいいことです。
今のあなたには恋愛は害です。それは辞めて、友情で出来ることをやってみようではないで
すか。3か月は休養をとってください。それはあなた自身のために生きるためです。…」
元々、ド・キュスティヌ侯爵は感情過多の人ではあったが、病気で弱っているショパン、そ
してマッシンスキもド・キュスティヌ侯爵の申し入れを好意ととらえ、6月に数日間、ド・キ
ュスティヌ侯爵のエンギエンの別荘とサン・ガルテンへ静養のため赴いたのであった。
ショパンはこれで少しは生きながらえたのである。
この夏、毎年のように招かれていたヴォジンスキ家からの招待状はショパンの元へ届かなか
った。ショパンは夏の予定が立たないため、ヴォジンスキ家へ短いメモのような文を送っ
た。「私は医者の勧めで夏はドイツの温泉保養地エムスへ行く予定です。アント二イに
手紙を書くついででかまいませんので、私に夏の予定をどうするか一言もらえませんか?」
ド・キュスティヌ侯爵からも「あなたの精神を蝕む恋愛はやめなさい」と忠告されていたシ
ョパンであったが、ヴォジンスキ家のことは、すっきりしないままずるずると切れないでい
た。マリアとのことも自分からははっきり切れない立場のショパンは、後でヴォジンスキ夫
人から圧力をかけられるよりも、自分の予定を前もって話したのであった。
ド・キュスティヌ侯爵 2019.2.23参照
Pianist由美子UNO が綴るショパンの情景
Pianist由美子UNOの感性が描くショパンの人生の旅のロマン このブログはPianist由美子UNOが全て手作業で行っており ショパンの物語の文章と画像はオリジナルです日々の出来事なども時折り皆様にお届けしております お楽しみいただけましたら幸いです
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