ℱ・ショパン《影の偵察者(エスピオン) — 巨匠たちの迷宮》

第二章:パリの二面性 — 影のなかの侵入者


冬の薄暗い光が差し込むパリ音楽院の講義室。

地味な学生用の外套に身を包み、低くかぶった帽子と眼鏡で顔を隠したショパンは、教堂の暗い柱の影へと紛れ込んでいた。

パリ音楽院は、あのリストのような異才すら「外国人だから」と人種差別で門前払いする閉鎖的な権威だった。ショパンもまた、最初から入学を拒絶されていた。

だがショパンの自尊心は、それを「私はポーランドで最高峰の教育を受けた身だ。あんな旧態依然とした学校など、こちらから願い下げだ」と解釈することで、かろうじて己の尊厳を保っていた。

しかし、実際に潜入してみると、その障壁は拍子抜けするほど容易く突破できた。

門の受付では厳格に「外国人」を排斥するくせに、一歩中に入れば、教授たちは教壇の上から学生の顔を一人ひとり識別することなどしない。勉強したい貧乏人への形ばかりの慈悲か、あるいはただの傲慢な無関心か。

その、片方で差別し、片方で許すというパリの奇妙な二面性の隙間に、ショパンは音もなく滑り込んでいた。

「ひからびたでくのぼう」

教壇に立つ老教授、ケルビーニとライシャの姿を見た瞬間、ショパンの唇に冷ややかな笑みが浮かんだ。

神経質に黒板を指すケルビーニと、退屈そうに金時計を眺めるライシャ。

彼らが大真面目に説く音楽理論は、ショパンにとってはすでに過去の遺物、干からびた骸骨に過ぎなかった。

ショパンは影の中で顎に手を当て、彼らを冷徹に観察した。


「エルスネル先生、貴方の言った通りだ。彼らの教育は、私たちがワルシャワで築いた高みには到底及ばない」

だが、安堵と同時に、さらに深い戦慄がショパンを襲う。

もし、エルスネルの狙いが、自分をこの排他的な音楽院や嫉妬深いカルクブレンナーにぶつけて共倒れにさせ、挫折させて自分の支配下へと呼び戻すことだったとしたら——。

外部からの差別、そして内部からの裏切り。

その二重の檻の中で、ショパンは途方もない孤独に包まれていた。


Pianist由美子UNO が綴るショパンの情景

Pianist由美子UNOの感性が描くショパンの人生の旅のロマン このブログはPianist由美子UNOが全て手作業で行っており ショパンの物語の文章と画像はオリジナルです日々の出来事なども時折り皆様にお届けしております お楽しみいただけましたら幸いです  

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