～ショパンの肖像、パトロンのラジヴィウ～

アントニ・ヘンリク・ラジヴィウ

（1775年6月13日 ヴィリニュス - 1833年4月17日 ベルリン）

ポーランド・リトアニア共和国およびプロイセンの貴族、音楽家、政治家、公（帝国諸侯）。

彼は、1813年より現在のベラルーシではニャスヴィシュという名前で呼ばれ、現在のウクライナのオルデナイトではオルィカ、ドイツではアントン・ラジヴィウと呼ばれました。

ラジヴィウは、1815年から1831年まで、ポーランド分割によりプロイセン領となった自治地域、ポズナン大公国の総督を務めました。

ラジヴィウは1775年、ヴィリニュス県知事ミハウ・ヒェロニム・ラジヴィウ公の息子としてヴィリニュスで生まれました。

1796年、プロイセン王フリードリヒ2世の弟フェルディナント王子の娘、ルイーゼと結婚しました。

プロイセン王家はルイーゼ王女と結婚させ、プロイセンがポーランドの領土を分割の結果プロイセン領となった地域のポーランド人と、プロイセンとの調停者の役割にラジヴィウを任命しまし。

そして、1806年、ナポレオン・ボナパルトによるポーランド遠征が始まりました。

ラジヴィウはフランス軍に対するポーランド人の蜂起を呼びかけました。そして、彼は、ユゼフ・ポニャトフスキ公（最後のポーランド王スタニスワフ・アウグスト・ポニャトフスキの甥）にフランスとの同盟関係を放棄し、プロイセンとロシアの側につくよう説得しました。しかし、この作戦は失敗に終わりました。

1815年、彼はポズナン大公国の総督に任じられ、ポズナンに派遣されました。1830年11月蜂起が発生すると、ラジヴィウは総督としての権力を全て剥奪され、大公国は自治権を大幅に奪われました。（蜂起に伴って成立したポーランド国民政府にはラジヴィウの弟ミハウ・ゲデオン・ラジヴィウも参加していた）。更迭されたラジヴィウはベルリンの私邸ラジヴィル宮殿に移り、1833年にそこで亡くなりました。ラジヴィウはポズナン大聖堂に埋葬されました。

ラジヴィウとルイーゼ王女の8人の子供はドイツ人として育てられ、ポズナンに戻ることはありませんでした。彼とその家族はワルシャワ近郊のニェボルフに城館付き荘園を持っていたほか、現在のベラルーシにあたる地域に莫大な所領を有し、3国家に分割された旧ポーランド領の各地を頻繁に訪れていました。

ラジヴィウは著名な芸術のパトロンでした。彼がベルリン、ポズナンそしてオストルフ・ヴィエルコポルスキのアントニンに所有していた宮殿では、政治家、貴族、芸術家、が集うサロンを開催していました。

ラジヴィウは、ベートーヴェン、ニコロ・パガニーニ（1829年5月19日にポズナンに来訪）、ゲーテ、フレデリック・ショパン、などを招いて、芸術家のサロンを開催していました。ラジヴィウ自身も、チェロを演奏しました。ショパンは「序奏と華麗なるポロネーズ」Op.3と「ピアノ三重奏曲」Op.8をラジヴィウに捧げました。

1828年10月2日にポズナンのラジヴィウ宮殿でのコンサートを行った。ベートーヴェン（1770年12月16日頃 -1827年3月26日）も「序曲Op.115」（『命名祝日』）を1815年ラジヴィウに献呈しました。フェリックス・メンデルスゾーンも「ピアノ四重奏曲第1番」Op.1を献呈しました。ゲーテは戯曲『ファウスト』でラジヴィウの作曲した作品を戯曲に使用しました。

娘のエリザ（1803年 - 1834年）はプロイセン王子ヴィルヘルム（後のドイツ皇帝ヴィルヘルム1世）と恋仲になったが、プロイセン宮廷の反対で結婚は実現しなかった。長男のヴィルヘルム（1797年 - 1870年）や三男のボグスワフ（1809年 - 1873年）は、プロイセンに軍人でした。

＊ショパンにまつわるお話＊

フレデリック・ショパン19歳の時のことでした。ショパンの友人ティトゥスは「君の肖像画が欲しい」とショパンに手紙（ティトゥスの手紙は現存しない）を書きました。

ショパンは「もしもエリザ姫が描いた自分の肖像画の中から1枚を盗むことができれば

僕は君にその肖像画を贈ると思う」と、ショパンは冗談を交えながらティトゥスの友情に応えました。

ラジヴィウの娘のエリザ姫が描いたショパンの肖像画は2枚あり、ショパンによく似ていると評判でした。

また、ショパンはアントニンのラジヴィウ邸に招待され2度訪問しました。合わせて約2週間の滞在でした。ショパンは「信じられないであろうがとても居心地が良かった。」と友人ティトゥスに話しました。